東京高等裁判所 平成12年(ネ)2586号 判決 2000年9月13日
控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)(原告) X1
控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)(原告) X2
右両名訴訟代理人弁護士 金子宰慶
被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)(被告) Y1
被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)(被告) Y2株式会社
右代表者代表取締役 A
右両名訴訟代理人弁護士 木村俊学
主文
一 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴の趣旨
原判決を次のように変更する。
1 被控訴人らは、控訴人X1に対し、連帯して金四二二〇万三六五八円及びこれに対する平成九年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人らは、控訴人X2に対し、連帯して金四二二〇万三六五八円及びこれに対する平成九年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 附帯控訴の趣旨
原判決を次のように変更する。
1 被控訴人らは、控訴人X1に対し、連帯して金一一三四万一七一七円及び内金一〇八二万一八五四円に対する平成九年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人らは、控訴人X2に対し、連帯して金一一三四万一七一七円及び内金一〇八二万一八五四円に対する平成九年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における主張
1 控訴人ら
(一) 原判決が逸失利益を算定するに当たり中間利息の控除割合を年三パーセントとせず、年五パーセントとしたのは違法不当である。
(二) 原判決がBの慰謝料を二〇〇〇万円、控訴人ら固有の慰謝料を各二五〇万円としたのは低額に過ぎ、Bの慰謝料は三〇〇〇万円、控訴人ら固有の慰謝料は各一〇〇〇万円とすべきである。
(三) 原判決が葬儀費用及び墓碑建立費を一五〇万円としたのは低額に過ぎ、五一二万九二一三円を認めるべきである。
2 被控訴人ら
(一) 原判決は過失相殺を否定したが、本件事故は加害車両が既に横断歩道上に差しかかった時に発生したものであり、Bは、横断歩道上を横断し始める時に加害車両を発見し、横断をしないでその通過を待っていることができたのに、先行していた母・控訴人X2の後を追う形で進んだために本件事故が発生したのであるから、横断歩道上の事故とはいえBの過失を否定するのは公平でない。
原審では二割の過失相殺を主張したが、当審では一割の過失相殺を主張する。
(二) 原判決が慰謝料の総額を二五〇〇万円とし、弁護士費用の総額を二五〇万円としたのはいずれも高額に過ぎ、それぞれ二〇〇〇万円、二〇〇万円とすべきである。
なお、原判決が逸失利益を三三六七万五八二二円とし、葬儀費用を一五〇万円としたのはいずれも相当である。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人らの本件各請求は、それぞれ被控訴人らに対し連帯して一七四二万六五二三円及びこれに対する平成九年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二〇頁八行目から九行目にかけての「過失はなかったというべきである。」を「控訴人X2に過失があったということはできない。」に改め、九行目の次に行を改めて次のように加える。
「 被控訴人ら主張のように、Bが加害車両に気付いて横断を中断し、又は控訴人X2がBの横断を中断させていれば、結果的に本件事故を回避することができたとしても、Bや控訴人X2がかかる措置をとらなかったことをもって同人らの過失と認めることができないことは右判示のとおりであるし、また、これを同人らの不注意ととらえて賠償額の算定に当たりしんしゃくすることが不相当であることは、右判示の本件事故の態様及び被控訴人Y1の過失の重大性等に照らし明らかというべきである。」
2 原判決二二頁一〇行目から同二五頁七行目までを次のように改める。
「(二) 中間利息の控除割合について
(1) 逸失利益の算定における中間利息の控除は、被害者が将来の一定の時点で受けるべき利益(金員)を被害者の死亡時点等における現価として算定するために、当該将来の時点までの一般的な運用利益に相当する金員を控除する趣旨のものであるから、その場合の控除割合を、利息を生ずべき金銭債権につき別段の意思表示がない場合に元本に附帯する旨法定されている利率(民法四〇四条)や、金銭債務の不履行に伴う損害賠償として元本に附帯する旨法定されている遅延損害金の利率(同法四一九条、四〇四条)と同一のものとしなければならない必然性があるものということはできない。
しかしながら、民法の制定当時、右の各利率が年五分と定められたのは、当時の我が国及び諸外国の一般的な貸付金利や法定利率などを参考にした結果であって、その割合を定めるに当たり一般的な運用利益が考慮されている点においては、中間利息の控除の問題と共通する背景があったということができるところ、民法の右各規定は、その制定当時から現在に至るまで改正されていないのである。また、将来の請求権の現価評価に関する現行法の規定について見ると、例えば、破産法四六条五号は、破産宣告後に弁済期が到来する無利息債権につき「破産宣告の時より期限に至る迄の法定利率による元利の合計額が債権額となるべき計算により算出せられる利息の額に相当する部分」をもって劣後的破産債権とし、会社更生法一一四条、和議法四四条の二及び民事再生法八七条は、これらの法律に基づく各手続の開始後に期限が到来すべき期限附債権で無利息のものの債権額の評価につき、いずれも、各手続開始の時から期限に至るまでの債権に対する法定利息を債権額から控除するものとしていることに照らすと、将来の請求権の現価評価に当たっては、法定利率による中間利息の控除をすることをもって公平に適うものとするのが、現行法の一般的考え方であると考えられるのである。
このような事情に照らせば、逸失利益の算定における中間利息の控除についても、それを不合理、不公平であるとすべき顕著な事由が存しない限り、前記の民法において定める年五分の法定利率によってするのが相当と解すべきである。
(2) ところで、わが国の金利動向については、昭和六一年ころまでは長期間にわたり定期預金の年利率が五パーセント前後の水準で推移してきたところ、最近の約一〇年間は顕著な低金利の状態が続いていることが公知のところである。しかしながら、かかる状態は、いわゆるバブル経済の崩壊に伴いわが国に現在生じている特異な現象と見ることのできるものであるから、将来にわたりかかる状態が永続するものと判断することはできない。そして、本件における逸失利益は、本件口頭弁論終結時から約五年後(Bが一八歳に達すべき時)以降約五〇年間にわたる得べかりし収入に係るものであって、かかる遠い将来にわたっての金利等の推移を的確に予測することは困難であるというほかないのである。
また、このような将来にわたる逸失利益の算定においては、得べかりし収入の額、生活費の額、稼働期間等の諸要素のいずれをとってみても、その数額や期間を具体的に予測することは困難であるところから、一般的、抽象的な蓋然性に依拠してその数額や期間を措定し、これにより算定することをもって満足するほかないのであって、中間利息の控除においても、同様に、一般的、抽象的な蓋然性によらざるを得ないものというべきところ、逸失利益の算定における中間利息の控除割合については、永年にわたり、右(1)のような基本的な考え方に基づき、その時々の金利動向の高下にかかわらず、前記民法上の法定利率による方法が定着して用いられてきたことをも考慮する必要がある。
(3) 以上のような事情を総合的に考えると、本件における逸失利益の算定上、中間利息の控除割合を年五パーセントの割合によるものとすることが、不合理、不公平であるとすべき顕著な事由が存するものということは未だできないものというべきである。
なお、控訴人らは、逸失利益算定上用いる賃金センサスの数値が経済成長に伴い一定の名目成長率で上昇していくから、中間利息の控除割合を定めるにつきこの点をも考慮すべき旨を主張するが、右(2)後段に判示した逸失利益算定の性質に照らし、採用することができない。
(4) よって、逸失利益算定における中間利息の控除は、年五パーセントの割合によってするのが相当というべきである。」
3 原判決二五頁末行の「B」から同二六頁一行目の「経過など」を「Bは大型コンクリートミキサー車である加害車両前輪で頭部を轢過されるという誠に痛ましい経緯で死亡したこと、控訴人X2は自らが引率する息子のこのような悲惨な最期を目前にしたものであることなどの事情」に改める。
4 原判決二六頁七行目の次に行を改めて次のように加える。
「 控訴人らは、右葬儀費用等損害として五一二万九二一三円を認めるべきであると主張するが、本件事故と相当因果関係のある右損害として一五〇万円を超える金額を相当とすべき理由を見出すことはできない。」
二 以上によれば、控訴人らの本件各請求は、それぞれ被控訴人らに対し連帯して一七四二万六五二三円及びこれに対する平成九年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであり、その余は理由がないから、これを棄却すべきである。
よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱崎恭生 裁判官 土居葉子 松並重雄)